美容ジャーナリストとして四半世紀あまり働き、幾万の化粧品を試してきましたが、体調を崩したことをきっかけに「素朴美容」をはじめました。もう10年以上経過して体調はほどほどに良くなったのですが、素朴美容は続けています。
「素朴美容」とは、薬品や電気を使わない器械と、水・火だけでつくるごく素朴な化粧品を使う美容です。
例えばお米なら、米油クレンジングやヘア&ネイルオイル、米糠をお湯に溶かし出して全身保湿液にする、など。
ほかにも十薬(どくだみ)は化粧水やかゆみ止めに。熊笹は和紙と一緒にタオルに織り込んで汚れ除去&血流促進マッサージ、またお茶や青汁として飲用すれば血液浄化。
糸瓜はへちま化粧水、繊維はボディたわし。日本酒は化粧水として。野菜やくだもの、野草の酵素液は拭き取りと保湿ができる化粧水。蜜ろうは保湿バームのベースに、などなど、など。
また、美肌のおばあさまがつくり続けてきた柚子など柑橘類の種を焼酎に漬け込んだなど、各地で当たり前のように伝承されてきた美容法も大切です。
そう、使うのは昔から使われてきた何気ないものばかり。雑草などと呼ばれてしまう植物が、むしろたっぷりの栄養と生命力を持っていて、これを素朴な方法で使いやすいかたちにしたのが素朴美容的美容料です。
基本は4品。①圧搾絞りの米油でクレンジング、②温泉ミネラル洗顔、③発酵化粧水、④みつろうバームで保湿、というシンプルなもの。
肌にいいのはもちろんのこと、お財布にも環境にもやさしい、エシカル(継続可能)な美容法なんです。
住んでいる土地が生み出す素材が、肌の本当の必要を満たす
「素朴美容」には基本となる考え方があります。最初に挙げたいのが、『地産地消』。そして『肌土不二』。
これは食べものと同じです。その土地で生きていくのに必要な栄養は、その土地の産物に含まれるということ。
基本的に寒い地方では身体を温める食べものが育ち、暑い地域では身体を冷やすものが育ちます。
スポンサードリンク
美容についても食べものと同様で、紫外線の影響でシミやそばかすができないようにする作用を持つ、例えば月桃(げっとう)は沖縄に、最近よく国産オーガニックコスメに配合される美白成分・梅は和歌山など温暖な地域に育ちます。
一方、肌をしっかり潤すコラーゲンたっぷりのフカヒレは宮城県気仙沼産が有名ですし、北海道で早春にだけ採取できる白樺樹液は冬の寒さでこわばり代謝が落ちた肌を活性化する働きがあるんです。
このように、肌に必要な成分は自分が住む土地や海、山の産物に含まれています。
以前、東京・青山の0.6ライスブランオイルという専門店で日本各地の米油をつけ比べて驚いたのは、北海道産の米油はねっとりと保湿力が高いのに、本州の米油はさらっとしていたことでした。
それぞれの地域に生まれた米油が、食べても、肌や髪につけても、それぞれに適切な働きをすると考えられます。
それを裏づけるエピソードがあります。インドの伝承医学アーユルヴェーダの大家が来日したときに、「湿度の高い日本には、湿気を取り除く植物がたくさん生えている」と驚いたそうです。
ちなみに暑いインドで生まれたヘナは身体を冷やしますから、本当にうまくできていますね。(だから冬にヘナするときは足湯で身体を温めながら、生理中はヘナをしない等の工夫が必要です)
こうした「地産地消」の考え方を、「肌土不二」と言い表した美容家がいます。平安時代から伝承され江戸時代に確立された古法に基づく化粧品を現代に蘇らせた「漢萌」の創始者 三戸 唯裕氏です。
現代の化学や薬学に基づく化粧品づくりとは全く異なり、天然の草根木皮を丸ごと煎じる・蒸留する・漬け込む・長期熟成発酵させるなどして、自然素材が持つ力をそのまま活かした「漢萌」の化粧品は、素材となる天然の草木を育む土がそのまま肌となり、そのまま肌の美しさになります。
スポンサードリンク
これが「肌土不二」。素材となる植物を育む土が豊かであれば、それによって栄養を受ける肌も豊かで美しくなる。
そう、食べものだけでなく美容も地産地消、「肌土不二」なのです。
ちなみに三戸氏は「一物全体」という理念も持っていました。これは、その食べものを丸ごと吸収して活用するには、一部ではなく全部が必要であるということ。
例えば、米ぬかを取り除いて精製された白いお米を消化吸収するには、ビタミンB群などの栄養を他の食べものから摂る必要がありますが、玄米として丸のまま食べればビタミンBはもちろん、消化吸収に必要なすべての栄養がそこに含まれています。
これが一物全体。だから「漢萌」化粧品を作るときにも素材の一部だけでなく、全てを漬け込み、熟成させたのですね。
(三戸氏は2016年に惜しまれながら亡くなりましたが、「漢萌」はオーガニックコスメの株式会社アイシスによって継承されています)
旬の素材が、その時期の肌の必要を満たす
次に素朴美容の基本理念として挙げたいのは、食べものと同じように「旬の素材をつかう」ということ。
例えばスイカは、夏の身体の熱を覚ましながら水分(津液)を補給して、夏バテを防ぎます。
同様にスイカを使った化粧水には、肌のほてりを鎮めて、実は乾燥している夏の肌を潤す働きがあるのです。
楽天→「野菜&果物」物語 ジューシースイカの化粧水 100ml 山澤清 モア・オーガニック 抗酸化作用で日焼けケアに 「シトルリン」郵便定形外配送無料(代引の場合通常送料) オードリーインターナショナル
汗をかいて潤っているかと思いきや意外と乾燥していて、とはいえこってりとした保湿をすると重たくて。夏のスキンケアは案外難しいのですが、スイカ果汁の化粧水をつけると、「そうそう、欲しかったのはこの感じ!」と肌がスッと受け入れるのがわかります。
新陳代謝を促して老化を防ぐβ-カロテンやコラーゲン生成に欠かせないビタミンC、活性酸素を除去するリコピンなども含まれますが、なかでもシトルリンは果物ではほぼスイカにしか含まれない栄養素。
アメリカではシトルリンのことをスーパーアミノ酸と呼び、血管を修復し血流を改善することから、酸素や栄養の運搬が高まります。だからスイカを摂取すると、翌日の筋肉痛が軽いとアスリートが愛用しているとか。
で、このシトルリン=スーパーアミノ酸が肌にもよい効果を及ぼしていると考えられます。さらっと吸い込まれるのに肌がしっかり潤うのは、このスーパーアミノ酸の働きと思われます。
このように、その季節の旬の食べものには、身体だけでなく肌にもいいと考えられるのです。
ほかにも、梅雨から初夏にかけての吹き出物やかゆみにはドクダミ化粧水、冬に醸造される日本酒を化粧水として使えばアミノ酸やビタミン、ミネラル、有機酸などが停滞しがちな肌に元気を与える、などなど。
土地の旬の食べもので健康を維持するように、地元の旬の素材を活かした素朴美容によって、肌を健やかに保つことができます。
また、地元の素材を使えば運搬費も掛かりませんし、各地に埋れた土地の素材を活かすことにもなります。
例えば、現在国産オーガニックコスメに保存料として使われることの多いローズマリーエキスには、アレルギー反応を示す人がけっこういて、「肌にやさしい化粧品を求めてオーガニックコスメを買ったのに、残念」という声が多く聞かれます。
しかし、ヒバ蒸留水(ヒノキチオール)などの抗菌系の精油を保存料とするという方法があり、すでに成果を挙げています。国土の7割を占める森林には、こうした素晴らしい素材がまだまだ眠っているのです。
地方創生というと、食べものを売り込むという発想がほとんどですが、そういった素材を化粧品やアロマとして生かすことで、その土地ならではの魅力を発信することができると考えられます。
道の駅などに置かれているその土地ならではの化粧品もとても興味を惹かれます。わたしは東京・松陰神社前と宮崎県北部を拠点にしていますが、宮崎県都農の養蜂場の方がつくる蜜ろうバームがとても気に入っています。
こういった地元ならではの素朴なコスメが、例えば農林水産省のホームページの日本地図をクリックすると閲覧できる「全日本素朴美容マップ」などがあったらいいなぁとも思います。
丁寧なモノづくりをしているけれど宣伝費がない、SNSも使いこなせない〜といった作り手にも光が当たることを望みます。
そんなページができるなら、被災地支援の窓口にもなりそうです。
台風で落ちてしまった果物や野菜を熟成発酵させた酵素化粧水のように、食用にならない作物を美容素材として販売すれば、被災地復興に活かせます。
被災地支援って、まず窓口を探すのがひと手間なので、ここを見ればいい、というホームページがるとシンプルです。
スポンサードリンク
ちなみに熟成発酵には、(フグ毒のような)毒素を消し、有効成分を増大させる力があります。日本各地に埋れた発酵の知恵が失われることなく、きちんと伝承されていくことを願います。
また、日本人の美肌は世界的にも知られていますから、こういった美容情報を国内だけでなく世界に向けても発信したいものです。
まとめ
「素朴美容」は地元の旬の素材を丸ごと、熟成発酵するなどしたごく素朴な美容法です。そこには一物全体、肌土不二といった食べものに通じる理念があります。
肌はもちろん、お財布にも環境にも、また地方の魅力を生み出す地方創生にも、「素朴美容」が役立ったらと思います。